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       その夜。 
       
       
       
      城の中でも一番高い所にある王専用の寝室の前で、ヒュンケルは途方にくれていた。 
       
       
      王との約束の時間は夜11時、もう数分でその時間になろうとしているのだが、どうにもこうにも足が先へと進まない。 
       
      この先で自分を待っているであろう運命を想像して青ざめるヒュンケルだったが、これも全てはパプニカのため、国民のため、ベンガ−ナ王の条件を呑むより他はないのだ。 
       
       
      もう一度自分の心に言い聞かせると、ヒュンケルは意を決して王の寝室へと続く扉をノックした。 
       
       
       
       
       
       
       
      「ヒュンケル様ですか?どうぞお入りください。」 
      「・・・?」 
       
      室内から聞こえた声に、一瞬ヒュンケルは首を傾げた。 
      てっきりベンガ−ナ王が返事を返してくれると思っていたのに、意外にも王の寝室から聞こえてきた声は、女性のものだったのだ。 
       
       
      (王だけではないのか・・・?) 
       
      疑問に思いつつも、できれば王と2人っきりは避けたいと思っているヒュンケルは、そうあってほしいと願いつつドアを開けた。 
       
       
       
      「・・・失礼します。」 
      軽く頭を下げ室内に入ると、見慣れた女性がヒュンケルを出迎えてくれた。 
      この女性は昼間ヒュンケルにお茶を出してくれた侍女だ。 
       
       
       
      「ヒュンケル様お待ちしておりました。さ、王は奥でお待ちです。」 
       
      室内に入ったヒュンケルに深々とお辞儀をすると、侍女は王の待つ奥の部屋へと案内してくれた。 
       
       
       
      「王は随分とヒュンケル様のご訪問を楽しみにされているご様子でしたよ。」 
       
      笑顔で王の様子を語る侍女だったが、ヒュンケルとしては王に会う事自体あまり好きではないため、そう言われても正直嬉しくなかった。 
       
      だがそれを表情に出してしまうほどヒュンケルも愚かではない。 
      とりあえず「そうか。」と一言言った後、薄く笑みを浮かべそのまま侍女の後に続いて王の寝室へと入っていった。 
       
       
       
       
       
       
       
      「おぉ!ヒュンケル殿!お待ちしておりましたぞ!」 
      「ベンガ−ナ王、お待たせしてしまい申し訳ございません。」 
       
      約束の時間には間に合っていたのだが、やはり人を待たせた事に申し訳なさを感じたヒュンケルが、謝罪の言葉と一緒に深く王に対し頭を下げる。 
       
      そしてゆっくりと顔を上げ瞬間、ヒュンケルの瞳がぎょっと見開かれた。 
       
       
      「いやいや、我々が早く来過ぎてしまっただけですよ!」 
      「そうですそうです!気になさらないでください。」 
      「だ、大臣!それに騎士団長殿まで!」 
       
      なんと室内には王だけでなく、昼間会議室に集まっていた大臣や団長といった重役、約10名ほどがヒュンケルを待っていたのだ。 
       
       
       
      「どうして皆さんがここに・・・?!」 
      てっきり王だけだと思っていたヒュンケルは、大臣達の姿に驚きを隠せなかった。 
       
       
      「どうしてと言われましても・・・我々も王とご一緒させて頂こうかと思いましてな。」 
      「ご、ご一緒・・・?」 
      「はい、王から許可も頂いております。そうでございますよね、ベンガ−ナ王?」 
      「うむ!やはりこういった事は皆で楽しむべきだからな!」 
      「み、皆で楽しむ事・・・??」 
       
      王や大臣達が言っている意味がさっぱりわからないヒュンケルは、頭に沢山のクエッションマ-クを浮かべているものの、それにかまわず王達は楽しそうに笑っている。 
       
       
       
       
       
      ・・・・なんだか自分一人取り残されたような気分がする・・・・ 
       
       
      そんな思いでいっぱいのヒュンケルだったが、今日此処に呼ばれた以上、いくら居心地が悪くとも帰るわけにもいかない。 
       
       
       
       
      「・・・でな、・・・という風にしようかと思っておるのだが・・・」 
      「おぉ!・・・を、・・・とは流石でございます!!」 
      「わははは!そうだろ!!そうだろ!!」 
       
      ヒュンケルを一人残し、楽しそうに笑う王と大臣達は、なにかの話題で大いに盛り上がっているようだ。 
       
      「・・・という手筈になっておるからな・・・では早速・・・おーいヒュンケル殿!」 
      「は、はい!」 
       
      手持ちぶさたにボ−としていたヒュンケルだったが、突如王に声を掛けられ弾かれたように顔を上げた。 
       
      そんなヒュンケルに対し、王は相変わらず楽しそうな笑顔を浮かべたまま、ちょいちょいと手招きをしている。 
      どうやらこっちに来いと言っているようだ。 
       
       
      「お呼びでしょうか。」 
      「うむ、あーヒュンケル殿、突然で申し訳ないのだが、ちょっと向こうで服を着替えてきてはもらえんかね?」 
      コホンとひとつ咳をすると王はヒュンケルにそう言った。 
       
      「着替え・・・ですか?」 
      突然の王の言葉にヒュンケルは小さく首を傾げる。 
       
      「そうです。服は向こうに用意してありますのでお願いしますぞ、ヒュンケル殿。」 
       
      突然そう言うと、王は真剣な表情で侍女を呼び、なにか指示を与え始めた。 
       
       
      「・・・はこうで・・・はこうだ、いいな?さ、わかったのなら急いでヒュンケル殿をあちらの部屋へとご案内しろ!」 
      「はい、承知致しました。さ、ヒュンケル様こちらへどうぞ。」 
      「え?あ、あぁ…   !」 
       
      再び一人ぽつんと取り残されていたヒュンケルだったが、いきなり侍女に腕をとられた。 
      かと思えば、一体この細腕のどこにこんな力があるのかと驚かされる力で、ヒュンケルの腕を引っ張ると、強引に別室へと引き摺られてしまった。 
       
       
       
       
       
       
       
       
      「それではヒュンケル様、早速こちらにお着替えください。」 
      別室に着くや否や、侍女はヒュンケルに衣装を渡すと着替えるように指示を出した。 
       
      「・・・これに着替えるのか?」 
      渡された黒い衣装と侍女を交互に見比べるヒュンケルに、侍女は無言で頷く。 
       
       
      ヒュンケルとしてはなぜ自分が突然着替えなくてはいけないのか、その理由が知りたいと思ったのだが、無言で自分を見続ける侍女からは『とにかく黙ってとっとと着ろ』的なオ−ラが出ており、その迫力に負けたヒュンケルは黙って服を着替える事を余儀なくされた。 
       
       
       
       
          そして待つ事数分。 
       
       
       
       
      「・・・これでいいのか?」 
      着替えを終へ衝立の向こうからヒュンケルが出てきた。 
       
      「まぁ、ヒュンケル様とてもお似合いでございます!」 
      ヒュンケルを一目見るやそう賛辞の言葉を口にする侍女だったが、言われたヒュンケルの表情は固い。 
       
       
      (・・・こんな服が似合うと言われても正直嬉しくもないのだが・・・) 
       
      腕でジャラ…という音を立てる鎖を見て、ヒュンケルの頬はひくりと引き攣った。 
      本当なら「こんな服着られるか!!」と言って今すぐに脱ぎ捨ててしまいたいほどだ。 
       
       
      なにせ今自分が着せられている衣装、それは誰がどう見たって『SM』・・・その中でも女王様が着るような超ハ−ド&エロセクシ−なボンテ−ジ風ビスチェだったのだから、脱ぎ捨てたくなるのも頷ける。 
       
      テカテカと黒光りするエナメル素材に、胸部をきつく絞ったデザインのコルセットが厭らしいほどにヒュンケルの身体のラインをくっきりと表している。 
       
      それにこのビスチェには棘や鎖といった装飾が多く施されており、これがこの衣装の怪しさを増す要因になっていた。 
       
      更に下のパンツに至っては、ミニのショ−ト丈に加え股上が異常に浅いためか、腰骨が丸見えになっているうえにこれまたピッチピチのサイズのため、お尻のラインがくっきりわかってしまう有様だ。 
       
      そんな変態・・・いやいや女王様チックな衣装など、ヒュンケルでなくともSMの趣味をもっていない者なら、着たいとは思わないのが普通だろう・・・。 
       
       
      しかし今のヒュンケルにはこの衣装を早々と脱ぎ捨てる事ができない理由があった。 
       
      昼間の会議で決まった“費用はベンガ−ナが全額負担”の見返りに出された条件、その一部としてきっとこの衣装を着る事も含まれているのだろうから・・・。 
       
       
       
       
      (・・・・・皆で俺を笑い者にするのが目的か・・・?) 
       
      そうとしか思えない衣装に、ヒュンケルの表情が益々険しくなっていく。 
       
       
       
       
       
      「本当にお似合いですわヒュンケル様・・・。ですがこれ以上にヒュンケル様の魅力を引きだすためにも、是非この靴をお履きになってください。」 
      そんなヒュンケルの様子など気にも留めていない侍女は、どこからともなく取り出した靴をヒュンケルの足元に置いた。 
       
      「・・・・・・・・」 
      ヒュンケルは己のこんな格好を見ても尚、賛辞の言葉を口にする侍女に対し、本気で彼女のセンスを疑いたくなったが、とりあえず黙って足元に置かれた靴に視線を落とした。 
       
       
       
       
      「・・・これは一体なんの凶器だ?」 
       
      置かれた靴を見たヒュンケルの第一声はそんな台詞だった。 
       
       
      「凶器ではありません。ロングブ−ツです。」 
      「いやロングブ−ツなのは見ればわかる。」 
       
      眉間に深い皺を作ったヒュンケルの前に置かれた靴、それはビスチェとお揃いのエナメル素材で出来たただのロングブ−ツ・・・というにはあまりにも危険な代物だった。 
       
       
      「・・・なぜ靴だというのに先端が針のように尖っている?これでは足が入らないではないか・・・」 
      このまま履けば外反母趾になること必至なほど、その靴の先端は尖っていたのだ。 
       
      「大丈夫でございます。この靴に使われているエナメル素材は、多少伸び縮みが可能ですので、履けないという事はございません。」 
      「・・・・・・・」 
      ようするに無理やり履け、という意味らしい。 
       
       
      「それからこの棘はなんだ?これでは危なくて外を歩く事はおろか、靴を履くことすらできないではないか。」 
       
      先端については諦めたヒュンケルだったが、次に気になったブ−ツの装飾について聞いてみた。 
      すると・・・ 
       
      「ご安心ください。その為にわたくしがお手伝いとしてこの場に居させて頂いているのですから。さ、さ、ヒュンケル様、まずは右足からお出し下さい。」 
       
      そう言うと慣れた手つきで凶器・・・ではなくブ−ツを履かせにかかる侍女。 
       
      流石にここまでされては履かないわけにもいかず、しぶしぶブ−ツに足を入れたヒュンケルだったが、案の定足のつま先はブーツに圧迫され窮屈なうえ、15cmはあるかというピンヒ−ルのせいでうまく歩く事ができない。 
       
      ちょっとでもバランスを崩したら即グキッ!と足首を捻挫してしまいそうだ。 
       
       
       
       
      「流石ヒュンケル様!最高にお似合いでございます!」 
      「・・・・・・ははは・・・」 
      もはや嫌味としか聞こえない褒め言葉に、ヒュンケルは乾いた笑いしか浮かばない。 
       
       
      この姿のまま王の待つ寝室へと戻るように言われたヒュンケルだったが、こんな格好で戻れば笑い者を通り越してただの変態と思われるのではないかと心配になった。 
      だがそんなヒュンケルに「とにかく堂々としていてくださいね!」とだけ念を押すと、侍女は寝室へと続く扉を勢いよく開けた。 
       
       
       
       
       
       
       
      「王様!ヒュンケル様のお着替えが完了致しました!」 
      「おぉそうか!!待ちかねておったぞ!」 
       
      渋々侍女に腕を引かれ寝室へと戻ったヒュンケルを、王は声を弾ませ迎え入れてくれた。 
       
                                                   
      「いやー思ったとおり!大変お似合いですぞヒュンケル殿!!」 
      「左様です!流石このために特注品で作らせた甲斐がありますな!」 
      「そ、そうでしょうか・・・・」 
      先程の侍女の言葉を忘れてしまったのか、ヒュンケルはあまりの羞恥に俯いだままボソボソと言葉を発していたが、嫌味な程に褒め称える王や大臣達に内心「これは新手のいじめか?」と段々殺気だっていた。 
       
      今だ歯が浮くほど己を褒め続ける王達を、ここで黙らせてやろうと思ったヒュンケルは、今まで塞いでいた顔を勢いよく上げ王達を睨みつけた・・・かと思いきや、突如その瞳を大きく見開き叫んだ。 
       
       
       
      「ベ、ベンガ−ナ王!?それに皆さん!?い、一体その格好はどうされたのですか!!」 
       
      「ん?これかね?これはこれからのための正装だよ。」 
      「せ、正装・・!?そ、それが・・・!?」 
      なんでもない事のようにさらりと言う王達だったが、ヒュンケルの動揺は収まらない。 
       
      なぜなら彼が見たもの、それはピッチピチ極小のブ−メランパンツを履いた王と大臣達の姿だったのだから・・・。 
       
       
       
       
       
       
       
      「!!!!!!!!!!!!!!」 
       
       
      そんな王達の姿に、ヒュンケルは声にならない叫びをあげた! 
       
      ガタイの良い男から果てには脂肪で弛みきった体格の者まで、兎に角大の男達が皆半ケツ丸出しの、下手するとぽろりもあるよ状態で部屋に犇いているなど、ヒュンケルでなくとも叫びたくなるだろう…。 
       
       
       
       
      世間一般の、普通の思考の持ち主なら即倒してもおかしくない光景だったが、先程侍女に『堂々としているように!』と念を押された以上、こんな事では倒れてはいけないと、超人的な精神力を持つヒュンケルはなんとかギリギリのラインで踏み留まった。 
       
       
      『それもこれも全てはパプニカの民のため・・・!!』 
       
      ただそれだけを胸になんとか冷静さを取り戻そうとしたヒュンケルだったが、相当な精神的ダメ-ジを受けているのには変わりない。 
      あと少しでも限界を超えれば忽ちノックアウトされてしまうのは必至だ。 
       
       
      (・・・耐えろ・・・耐えるんだ・・・) 
       
       
      必死で己に言い聞かせるヒュンケルだったが、その思いとは裏腹に、男達は突如高揚とした面持ちでヒュンケルに近づいてきた。 
       
      まるで獲物でも狙うが如くギラギリした目で己との距離を詰めてくる男達に、超人並みの精神力を持つヒュンケルも、とうとう耐えられずに腰が引けてしまった。 
       
       
      「ヒュンケル様いけません!貴方様は堂々と胸を張って立っていなければならないのですから!」 
      すかさず侍女から注意が飛ぶが、そんな事を意識していられるほどヒュンケルに余裕はない。 
       
      「い、いやそうは言ってもだな・・・」 
      「いけません!気高く!美しく!それがヒュンケル様なのです!」 
       
      そう熱く語る侍女に、この状況でそれは無理だろう・・・と顔を引き攣らせるヒュンケルだったが、そんな事には構わず彼女は更に続けてこう言った。 
       
       
      「いいですかヒュンケル様、これより貴方様をもっと素敵に輝かせる為のアイテムをお渡し致します。」 
      そう言うと侍女はある物を取り出した。 
       
       
      ・・・そのある物、一見掃除の時に使う『畑木』のように見えるのだが、先のバラバラ部分が布ではなく赤黒く光る硬いゴムで出来ている。 
      そして持ち手部分はというと、豪華な朱塗りの上に煌びやかな金の装飾が施されていたのだが、その朱と金のコントラストが、妙に艶かしくヒュンケルの瞳に写ったのは気のせいだろうか・・・。 
       
       
      「・・・それは一体なんだ?」 
       
      なんとなく怪しい予感がしつつも、見慣れない物の登場に首を傾げるヒュンケル。 
      はっきり言って今の格好だけでも嫌でしかたがないのに、この上更に変な物まで持たされたのではたまらない。 
       
      それ故多少神経質になりつつあるヒュンケルが、受け取りに難色を示すものの、侍女は構わず強引にヒュンケルにある物を握らせた。 
       
       
       
      「そちらはバラ鞭といいます。」 
      「バラ鞭?」 
      聞いた事がない名だと思ったヒュンケルだったが、鞭と付くのだからきっと武器かなにかに違いない。 
       
      だがなぜそんな物を自分が持たされるのかには疑問が沸く。 
       
       
      「・・・なぜこれを俺に?」 
      「必要な物だからです。」 
      「必要な物?」 
      「はい。」 
      「それは一体なにに・・・」 
      「さ、次の説明に参ります!」 
      「!?」 
      ヒュンケルの疑問をばっさり遮った侍女からは、これ以上の質問は受け付けませんオ−ラが出ていた。 
       
      そんな侍女の様子にいまいち納得いかない表情のヒュンケルだったが、この場はぐっと堪えて彼女の次の言葉を待った。 
       
       
      「それでは次にこのバラ鞭を振り下ろしてください。」 
      「振り下ろす?この場でか?」 
      「はい。できるだけ強くお願いします。」 
      「・・・・・・・・・・わかった・・・」 
       
      ここまできたらもはや黙って従うしかないと思ったヒュンケルは、無言で侍女に言われるまま力いっぱい鞭を振り下ろした。 
       
       
       
      ビシィィ!! 
       
       
       
      空を切り裂くかのような鋭い音が室内に響く。 
      すると・・・・・ 
       
       
       
       
      「あぁんvv」 
      「はぁんvv」 
       
       
      途端に王や大臣といった者達から上がる嬌声   ・・・ 
       
       
       
       
       
       
       
       
       
      「ぐはぁっ!!!」 
       
      『ヒュンケルは500のダメ−ジを受けた!』 
       
       
       
      その嬌声はバーンのカイザ−フェニックス並みの破壊力を持ち、ヒュンケルを一撃で再起不能へと追い込む程の気持ち悪さだった・・・。 
       
       
       
      そのあまりの気色悪さに、全身鳥肌が立ちぶるぶる震えが止まらないヒュンケルだったが、侍女はそんな様子など気にもせず、さらりとした口調で言った。 
       
      「はい、では次にいきます」 
      「ちょ、ちょっと待て!」 
       
      王達のおぞまし過ぎる嬌声に大ダメ−ジを受けている自分をも軽く無視する侍女に、とうとうヒュンケルの我慢が限界を超えてしまった。 
       
      「どうかされましたか?」 
      「ど、どうかしたもなにも王達が・・・!」 
      「ヒュンケル様、あれは王ではありません。あそこに居ますのは“ブタ野郎”でございます!」 
      「ブ、ブタ野郎!?」 
       
      先程の嬌声にも驚いたが、それ以上に一国の国王をブタ野郎呼ばわりするこの侍女にも驚いた。 
       
      冗談でも自国の王をこの様に呼ぶなどただでは済まされないはず・・・! 
      そう思ったヒュンケルだったが・・・・・・ 
       
       
       
      「はぁぁ…んも、もっと!もっと呼んでくれ!!」 
       
       
       
       
      「!!!!!!!!!!!!」 
       
       
      なんと呼ばれた王…いや、ブタ野郎はそれはそれは恍惚とした表情でうっとりしているではないか!!! 
       
      あまりの衝撃に呆然と立ち尽くすヒュンケルの横で、侍女はこほんと小さく咳をすると今度は大臣達を指差した。 
       
      「それから大臣達は皆“ウジ虫野郎”とお呼びください。」 
      「ウ、ウジ虫野郎!?」 
       
       
      「あっぁん!!」 
      「い、いぃぃん!!」 
      「も、もっと!もっとそうお呼びくださいぃ!!」 
       
       
      「!!!!!!!!!!!!!!」 
       
      王と同じく恍惚とした表情を浮かべ悶える大臣達。 
       
      その中には興奮のあまり目が完全にイッちゃってる者や、涎を垂れ流して喜んでいる者までいる。 
      それほど“ウジ虫野郎”の言葉は大臣達に喜びを与えているのかと思うとヒュンケルは恐ろしさのあまり震えた。 
       
       
      だが恐怖はこれだけでは終わらない。 
       
       
      なんと興奮した大臣達が、まるでゾンビのように床を這いずりヒュンケルに近付いてきたのだ。 
       
       
      「あぁ…ヒュンケル様!ヒュンケル様!」 
      「!!!!!!!!!!」 
       
       
      恐怖のあまり完全に動きを停止させてしまっているヒュンケルだったが、なんとその彼の前に侍女が立ちはだかった・・・かと思うと   ! 
       
       
       
       
      ドカッ!!! 
       
       
      なんと物凄い勢いで床に這いずるウジ虫大臣を蹴り上げたのだ! 
       
       
       
      「!!!!!!!!!!」 
       
      「ふぅ・・・さ、ヒュンケル様このように近付いてくる者は遠慮なく蹴り上げてください。」 
      まるで何事もなかったかのように侍女は顔色一つ変える事無く、さらりととんでもない事を言った。 
      ・・・が、ヒュンケルはそれどころではない。 
       
      たった今目の前で起きた事に驚き過ぎて、侍女の言葉など聞いてはいなかったのだ。 
       
       
      「ヒュンケル様?」 
      「はっ!あ、す、すまない少し意識が飛んでいた・・・」 
      あまりの衝撃に意識まで飛びそうになっていたヒュンケルだったが、侍女の声で現実世界へと引き戻された。 
       
       
       
      ・・・戻ったところで地獄が待っているだけなのだが・・・ 
       
       
       
       
       
      ・・・・・・To be continued 
       
       
       
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