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       昔々あるところに、アバンとフロ−ラというそれはそれは賢く美しい王様と女王様がいました。 
       
      結婚生活も9年目を迎えた2人でしたが、なかなか子宝に恵まれず、日々寂しい思いを募らせていましたが、結婚10年目を迎えたある日、待ちに待った女王フロ−ラ様ご懐妊という知らせが医師から告げられたのです。 
       
       
      「あぁーアバン!ついに!ついに私…!!」 
      「フロ−ラさん…待ちに待った私たちの子供ですね!」 
      手と手を取り合って喜ぶ2人を、城の者たちも国民も温かな気持ちで見守っていました。 
       
       
      そして月日は流れ、国王夫妻に元気な男の子が生まれました。 
       
       
      綺麗な銀髪の、くりくりした大きな瞳に、少々眉毛が太いという事意外はなんら普通の子と変わらない愛らしい赤ん坊。 
       
      国中が赤ん坊の誕生を祝い、また各国からもお祝いの言葉と品物が次々と届くなか、お城では誕生記念パ−ティ−が開かれていました。 
       
       
       
      「先生、フロ−ラ様、この度はおめでとうございます!」 
      パーティ−には妖精界を代表して、レオナ、マァム、メルルといった3人がお祝いに来てくれました。 
       
      「3人とも遠い所から来てくれて本当にありがとう…」 
      赤ん坊を抱いたフロ−ラが幸せいっぱいの顔で3人に微笑みました。 
       
       
      この日妖精の3人がパーティ−に現れたのにはわけがありました。 
      それは生まれたばかりの赤ん坊がこれから幸せになれるように、魔法をかけにきたのです。 
       
       
      「先生、フロ−ラ様、私達からのお祝い受けとってくださいね。」 
      そう言うとそれぞれ手に持ったステッキを天に翳し、呪文を唱えました。 
       
       
      「愛と勇気と正義の心をこの子に   !!」 
       
       
      眩い光と共に赤ん坊に聖なる魔法がかけられていきます。 
       
      これで我が子の将来は安心だ、そう思った国王夫妻でしたが、けたたましい音と共に現れた一人の魔法使いによって、赤ん坊の運命は大きく変えられることとなったのです。 
       
       
      「おのれ貴様らー!!よくも大妖魔士であるこのわしをパーティ−に招待せなんだなー!!これでもくらえー!」 
       
      どす黒い怒りのオ−ラを纏った妖魔士ザボエラは、パーティ−に招待されなかった事を恨み、なんと生まれたばかりの赤ん坊に呪いをかけてしまったのです。 
       
      「ふん!そのガキが20歳になった時、もがき苦しんで死に至るようザキの呪いをかけてやったわい!!キィーヒッヒッヒー!!」 
      「っなに!?」 
       
      あぁ…なんという事でしょう・・・、妖魔士ザボエラはなんの罪も無い赤ん坊に、死へと誘う呪いの魔法をかけてしまったのです。 
       
      「わしを呼ばなんだ罰じゃ!たっぷりと生き地獄というものを味わうがよいわ!」 
      そう言うと不気味な笑い声を残し、ザボエラは闇へと消えていってしまいました。 
       
       
       
      「あぁ!なんという事でしょう!なんの罪もないヒュンケルに呪いをかけるなんて…」 
      ヒュンケルを胸に抱き、ポロポロと涙を流すフロ−ラ様。 
      先程までお祝いム−ド一色だった会場が、一気にお通夜のような重苦しい空気へと変わってしまいました。 
       
       
      皆が皆、幼い赤ん坊にかけられた呪いに心痛めていた頃、一人の魔法使いがやってきました。 
       
      「オイオイどうしたんだよ皆暗い顔してー今日はお祝い事だろ?もっと明るくいこうぜ!」 
      遅れてやってきたのはポップという魔法使いでした。 
       
      「…ポップ…実は大変な事があったのよ…」 
      「あん??」 
      いまいち状況がわかっていないポップに、マァムは今起きたばかりの出来事を話しました。 
       
      するとみるみるポップの顔色が変わっていきます。 
       
      「マジかよ…最低な奴だな…。でも俺が来たからには大丈夫!なんてったって俺は大魔導師ポップ様だからな!そんな呪いちょちょいと解いてやるぜ!」 
      そう言うと持っていた杖を振り翳し、赤ん坊にかかっていた忌まわしい呪いを解いてしまいました。 
       
      「ポップ君!本当にありがとう!あのまま呪われたままだったらこの子がどうなっていたか…考えただけで気が狂いそうだったわ・・・」 
      「ポップ、本当にありがとうございました。心からお礼を言わせてもらいます。」 
      我が子を助けてくれたポップに、深々と頭を下げ夫妻はお礼を言いました。 
       
      「いやいや〜当然の事をしただけっすよ!ただザボエラは執念深い奴だから、呪いが解けたなんて知ったら怒ってまた他の呪いをかけてくるかもしれません。気をつけてくださいね!」 
      そう言うと来た時と同様、笑顔で会場を去っていくポップに、国王夫妻は感謝しても感謝しきれない思いでいっぱいでした。 
       
       
       
       
      そしてそんな忌まわしい事件から早十数年……。 
       
       
       
      ヒュンケルと名づけられた赤ん坊はすくすくと成長し、人を愛する優しさと悪を憎む正義の心、そして強い意志と勇気を持った立派な青年へと成長していました。 
       
      親であるアバンフロ−ラ夫妻も、ヒュンケルの成長を心から喜び、赤ん坊の頃に起きたあの忌まわしい呪いの事をすっかり忘れかけていました。 
       
       
       
      だがそんなある日の事です。 
       
      いつものように剣の練習の為、近くの森へと出かけて行ったヒュンケルが夜になっても帰ってきません。 
       
      どんなに遅くてもいつも夕飯には戻って来ていたのに、夜になっても戻ってこないなんて何かあったのかもしてない…。そう思った夫妻は部下にヒュンケルを探してくるよう命じました。 
       
      数分後、森から戻ってきた部下は顔色を変え夫妻の前に転がり込んで来ました。 
       
      「た、大変でございます!も、森が!森が邪悪ないばらによって覆い尽くされ、ヒュンケル様はそのいばらの内部に閉じ込められてしまったようです!」 
      「な、なんですって!」 
      「それは本当ですか!?」 
      「はっ!森に着いた我々の前にザボエラと名乗る妖魔士が現れまして…」 
      「ザ、ザボエラですって!!」 
      アバンとフロ−ラの顔色がみるみる青くなっていきます。 
       
      二度と会う事も、名を聞く事もないと思っていたあの忌まわしい妖魔士ザボエラがヒュンケルに一体なにをしたのか… 
      居てもたってもいられなくなった夫妻はいばらの森へと走りました。 
       
       
       
       
       
      森に着くと魔法使いのポップと妖精のマァムが立っていました。 
       
      「ポップ!マァム!どうしたんですかこんな所で!」 
      「あ、先生フロ−ラ様!メルルがとても邪悪な妖気を感じるって言うので森を調べにきたんですが…まさかこんな事になっているなんて・・・」 
      「あぁ…考えたくはないがこの妖気…あの妖魔士ザボエラに違いねぇ…」 
      「…やはりこれはザボエラの仕業だったのですね…」 
      憎憎しげにその名を口にしたアバンに、突然空から不気味な声が響き渡りました。 
       
      「キィーヒッヒッヒ!!憎きアバンよ!とうとう貴様に復習をする時がきたようじゃのぉ…」 
      「っく!ザボエラ!やはりお前の仕業だったのですね!ヒュンケルは!ヒュンケルはどこです!?」 
      「ふん!貴様の息子は今や呪いのいばらの中じゃ!今から20年前にかけた呪いが発動する。愛する息子が惨たらしく死ぬのをとくと見るがよいわー!!キィーヒッヒッヒ!!」 
       
      そう言うと天高く杖を翳したザボエラがザキの呪文を唱えました。 
          が、いつまで経っても呪いは発動しません。 
       
      「な、なんじゃ?!なぜ呪いが発動せん!」 
      「ケッ!あったりまえだぜ!テメーの呪いなんぞとっくの昔に俺が解いてやってんだよ!」 
       
      ザボエラは知りませんが20年前のあの日、ポップはヒュンケルにかけられた呪いを解いてくれていたのです。 
       
      「なんじゃとー!貴様〜よくもよくもわしの呪いを〜!!」 
      余程呪いを解かれたのが悔しいのか、大の大人が(いえジジイが)地団太踏んで悔しがっています。 
      ですがそんな隙をアバン達が見逃すはずがありません。 
       
      「今ですポップ!!」 
      「まかせといてください先生!!メドロ−ア!!」 
       
       
      「ギャァァァーーー!!!」 
       
       
      眩い光と共に妖魔士ザボエラは消滅してしまいました。 
       
      「…あれ?意外とあっさり片付いちゃいましたね先生。」 
      「…そのようですね…。もっと恐ろしい魔法を使ってくるかと思ったのですが…ま、これはこれで良いでしょう。それよりもヒュンケルはどこですか?」 
      「きっと森の奥にいると思います!行きましょ!」 
       
       
      ザボエラが消滅した今、森を覆っていたいばらは跡形もなく消え、森は本来の姿を取り戻していました。 
       
      4人が森の奥へと入っていく、なんといばらに覆われた大きな塊が転がっていました。 
       
      「…なんですかあれ…?」 
      「み、見てアバン!あの銀髪!!ヒュンケルの髪だわ!!」 
      「え!?ど、どこです?!」 
      フロ−ラが指差す先、転がるいばらの塊からヒュンケルの髪らしき銀髪が飛び出していたのです。 
       
      「ザボエラが死んで呪いは全て消えたはずなのに、どうしてヒュンケルだけがこんな事に…」 
      「ふむ…それはわかりませんが、とりあえずヒュンケルを救うのが先です!」 
      そう言うとアバンは持っていた剣でいばらを真っ二つに切り裂きました。 
      が、なんと切り裂いたと思った瞬間、いばらは一瞬の内に元の姿に戻ってしまったではありませんか。 
       
      「な、なんですかこのいばらは…!!」 
      「先生!今度は私がやってみます!閃華裂光拳!!」 
      マァムが必殺技閃華裂光拳を放ちましたが、またしてもいばらは消えることなくすぐに元の姿へと戻ってしまいました。 
      「そんな…閃華裂光拳も効かないなんて…」 
      「じゃーこれならどうだ!!メドロ−ア!!」 
      先程ザボエラを消し去った極大消滅呪文を放ったポップでしたが、やはりヒュンケルを覆ういばらを消す事はできませんでした。 
       
       
      「なんだってんだよこいつは!!」 
      剣も駄目、裂光拳も駄目、魔法も駄目、これではもう打つ手がありません。 
       
       
      「だぁー!こりゃ一体どうすりゃいいんだよ!」 
      「とにかく考えるのです!きっと何か良い方法があるはずですから!」 
      そう言うと深夜の森の中、4人はなんとか良い方法はないかと一生懸命頭を捻ります。 
      しかし小一時間ほど考え込んだ4人でしたが、なかなかよい方法は浮かびませんでした。 
       
      だがそんな時でした、尚も考えこむアバン達の元に、何者かが近付いてきたのです。 
       
       
      「オイ、お前達ヒュンケルという男を知っているか?」 
      なんと青い皮膚に尖った耳をもつ魔族風の男がアバン達に話しかけてきました。 
       
      「えっと…失礼ですがどちら様ですか?」 
      「俺はラ−ハルトだ。」 
      「はぁ…ラ−ハルさんですね。申し遅れました私はアバン、ヒュンケルというのは私の息子の事ですが…何かご用でしょうか?」 
      「世界一の剣の腕を持つというヒュンケルとやらに会いにきた。どこにいる?勝負がしたい。」 
      「は、はぁ…勝負ですか…」 
       
       
      実はヒュンケルは知る人も知る剣の達人でした。 
      剣を持たせたらヒュンケルにかなう者はいない!そんな風に言われているためか、時々こうして腕自慢の輩がヒュンケルに勝負を挑んでくるのです。 
       
      「えーわざわざお越しいただいて誠に申し訳ありませんが、今ヒュンケルはこんな事になっていまして……」 
      アバンがいばらの塊を指差すとラ−ハルトは首を傾げました。 
      「あれがどうしたというのだ。俺が探しているのはそんな塊ではない。」 
      「…いいえ良く見てみてください。銀髪が見えるでしょ?ヒュンケルは今どういうわけかあのいばらの中に閉じ込められているのです。」 
      「はぁ?」 
      言っている意味がわからないという表情のラ−ハルトでしたが、目を皿のようにして見て見ると、確かに銀髪がぴょこんと出ているのが確認できました。 
       
      「なぜあんな姿になっているのだ…?」 
      「えーとそれは話すと長くなるんですが…」 
      とりあえずアバンは今まで起きた事をラ−ハルトに説明すると、なんとかヒュンケルを助けられないかと訴えかけてみました。 
       
       
       
      「…なるほど理由はわかった。どのみちこのままではヒュンケルとは勝負ができん。ならば俺が最強の力であのいばらを破壊してやらんこともない。」 
      「本当ですか!それは是非!宜しくお願いします!」 
      このラ−ハルトの強さがどれぐらいのものかわかりませんが、あのヒュンケルに勝負を挑むぐらいです、きっとかなりの強者なのでしょう。 
       
      一か八か、アバン達はこのラ−ハルトに賭けてみることにしました。 
       
       
      「はぁぁぁーー!!」 
      持っていた槍をびゅんびゅんと回し、ラ−ハルトは天高く飛び上がりました。 
       
       
      そして   !! 
       
       
      「ハーケンディストール!!!」 
       
       
      凄まじい衝撃波がいばらへと直撃したかと思うと、あれほど頑なにヒュンケルを覆っていたいばらがばらばらに引き千切られていきます。 
       
      「おぉ!すげー!マジであいつやりやがったよ!!」 
      「ハーケンディスト−ル!なんて凄まじいパワ−なの!」 
      「でもこれでヒュンケルが助けだせますね!」 
      「そうだわ!ヒュンケル!ヒュンケルしっかりして!!」 
      ようやくいばらから開放されたヒュンケルでしたが、瞳は閉じられたまま一向に目覚める気配がありません。 
       
      「へ、変ですね…外傷はありませんし、そろそろ目を覚ましてもよいかと思うのですが…」 
      「さっきのあのハ−ケンなんとかってやつの衝撃で気絶してんじゃないですか?」 
      「ハーケンディスト−ルだ。外傷がない以上、衝撃はあったかもしれんが気絶するほどのダメ−ジはないはずだ。」 
      「それならどうして目を覚まさないのかしら…」 
      皆が首を傾げるものの、ヒュンケルはやはり目覚める気配がありません。 
       
       
      「ちょっと…ほっぺた叩いてみましょうか…」 
      「え、えぇ…そうね…少しだけ…」 
       
      ペチペチ… 
       
      「…起きないわね…」 
      「…こそぐってみたらどうです?」 
       
      こちょこちょこちょ… 
       
      「…ぴくりとも動かないわ…」 
      「水かけてみようぜ!」 
      「……致し方ないですね…」 
       
      バッシャーン!! 
       
      「…これでも起きませんか…」 
      「…オイ、まだ目覚まさねぇのかよ?!」 
      「そんな急かしても起きないものはしょうがないでしょ!」 
      いつまで経っても目覚めないヒュンケルに、ポップは少し苛立ち気味です。 
       
      いえポップだけではありません。 
      時刻は深夜2時過ぎ、ヒュンケル失踪から始まりザボエラ退治にいばらからの救出劇と皆へとへとなのです。 
       
       
      「くっそ〜これがどっかのお姫様なら俺が熱いキスの一つでもして目覚めさせてやるんだけどなー!」 
      ポップがヤケクソ気味にそんな事を呟きました。 
       
      「「「それだ!!」」」 
       
      「へ?」 
      なんの気もなく発したポップの言葉に3人が声を揃えて叫びました。 
       
      「そうよ!それよ!物語にもあるじゃない王子様のキスで目覚めるお姫様のお話!」 
      「おいおい、マァムそれはいくらなんでも…」 
      「そうね…力ずくで起きないのならそういう手もあるわね…」 
      「フ、フロ−ラ様まで…ヒュンケルはお姫様じゃありませんよ?」 
      「ですが他に方法はありません!兎に角今はその方法を試してみましょう!」 
      「…先生までマジかよ…」 
      まさか自分の言葉でこんな事になるなんて思ってもみなかったポップは驚きました。 
       
       
      「ふん、くだらんな。」 
      ラ−ハルトだけは本気にしていない様子ですが、他の3人は真剣そのものです。 
       
       
      「それで一体誰が王子様役をやればいいのかしら…」 
      「物語ではお姫様を救ったのが王子様ですから、やはりヒュンケルを救った人が王子様役をやるのが良いのではないですか。」 
      「ヒュンケルを救った人…そうですね…でしたら…」 
      「…おい、ちょっと待て。なぜ俺を見る?」 
      3人の熱い視線を受けたラ−ハルトはいやな予感がしました。 
       
       
      「ラ−ハルトさん!お願いしますヒュンケルに目覚めのキス…!」 
      「断る!」 
      ラ−ハルトの嫌な予感が当たってしまいました。 
       
      「そんな〜これも人助けだと思ってお願いしますよ!」 
      「嫌だ!そもそもその話は物語だ!現実に目が覚めるとは到底思えん!」 
      「そこをなんとか!ヒュンケルが起きなければ勝負できないでしょ?」 
      「そ、それはそうだが無理だ!!」 
      勝負が出来ないのは心残りですが、それでも男にキスをするような趣味をラ−ハルトはもっていません。 
      嫌なものは嫌なのです。 
       
       
       
      「…こうなれば…致し方ありませんね…マァム!」 
      「ハイ先生!」 
      「ラーハルトさんを押さえつけていてください!」 
      「なに!?っぐ!!は、離せ!!」 
      頑なにキスを拒むラ−ハルトでしたが、アバンは怪力マァムを使いとうとう強行手段に出ました。 
       
      「ごめんなさい!でも、もうこれしか方法は残っていないの!」 
      「一瞬です!一瞬で済みますから!!」 
      「や、やめろ!!離せーー!!」 
      なんとか逃げ出そうと暴れるラ−ハルトでしたが、マァムにがっちり押さえつけられているため逃げる事ができません。 
      その間にもどんどん己に近づくヒュンケルの顔。 
      間近で見れば彫刻のように整った綺麗な顔が…その顔が唇が近付き……!! 
       
       
      ちゅっ! 
       
       
      互いの唇が触れ合った瞬間、ヒュンケルの長い睫で縁取られた瞼がぴくりと動きました。 
       
      そしてラーハルトとヒュンケル、互いの視線がばっちり合った時…… 
       
       
      「…っあ…!!」 
      「…っん…!!」 
       
       
      2人は雷に打たれたかのような衝撃を受けました。 
       
       
       
       
       
      「あぁーよかったヒュンケル!やっと目を覚ましてくれたのね!!」 
      「本当にマジで心配したんだぜー!」 
      「ラーハルトさんも協力ありがとうございました!」 
      無事に目を覚ました事に安心したアバン達が話しかけますが、今の2人にはまったく聞こえていません。 
      なぜならば2人とも互いしか見ていなかったからです。 
       
       
      青い肌に尖った耳、人でないのは明らかですがその身体つきは逞しく、キッと引き締まった顔立ちは男から見ても惚れ惚れしてしまうほどカッコ良いラーハルトに、一目でヒュンケルは心奪われてしまいました。 
       
      一方、目にも眩しい銀髪と、神話の世界から抜け出たような完璧な美貌をもった美青年ヒュンケルに、同じくラ−ハルトも一目で恋に落ちてしまったのです。 
       
       
       
      「……運命…というものを信じるか…?」 
      「…あぁ、今なら信じられる…」 
      そんな臭い台詞を吐きつつ、互いの想いに気付いた2人は手と手を取り合いました。 
      そしてしばし目と目で語り合った後、何を思ったか2人一緒に天高く飛び上がったのです。 
       
      「ちょ、ちょっと貴方たち!!一体何処へ行くのですか!?」 
      「父さん、母さん、それからマァムにポップも今までありがとう!」 
      「俺達はこれから2人で旅に出る!!」 
      「えぇ!?ちょ、ちょっと旅ってなんですか!!」 
      突然とんでもない事を言い出したヒュンケルに、流石のアバンも腰が抜けるかと思うほど驚きました。 
       
      「大丈夫、たまには帰るから許してほしい!」 
      「い、いや帰るとかではなく!兎に角戻ってきなさいヒュンケルーー!」 
      「では行くぞ!!」 
      そんなアバンの言葉も虚しく、2人は仲良く手を繋ぎ夜の闇へと消えていってしまいました。 
       
      「ま、待ちなさい!ヒュンケル!!ラ−ハルトさん!!」 
      消えた空に向かって叫ぶものの、その叫びは虚しく夜の闇へと木霊するだけでした…。 
       
       
      「まさかあのヒュンケルとラ−ハルトさんがこんな事になるなんて…」 
      「私も未だに信じられません…」 
      「でもよー行っちゃったもんはしょうがなくありませんか?」 
      「…そうね…ちょっと急だったけど、ヒュンケルはアバンの子だもの。一箇所に留まったりしないでいつか出て行く日がくる…とは思っていたわ…」 
      急どころではない話ですが、それなりに覚悟を決めていたらしいフロ−ラは至って冷静な態度で言いました。 
       
      「…はぁ…まぁ、私も昔はいろいろありましたが、あれは若気の至りというか…」 
      「だったらいいんじゃない?広く世界を知る良い機会だわ。」 
      「いえまぁ…そう、そうですね。いざとなったら自分の身ぐらい守れますしね!」 
      そう言うとヒュンケル達が消えた空を見上げるアバン夫妻でしたが、その目には薄っすらと涙らしきものが浮かんでいました。 
       
       
      こうして王子様に助け出されたお姫様は、2人仲良く旅立って行ったのでした。 
       
       
      めでたしめでたし…と。 
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