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       ここはパプニカ城内にある庭園。 
      色とりどりの花々が咲き乱れ、地上の楽園と言って良いほど優雅で美しいこの庭園で、3人の女性が午後のお茶を楽しんでいた。 
       
       
      「でもホント平和になったわよね〜」 
      「えぇ。あの大戦からもう3年…。月日が経つのは早いわ…」 
      優雅な仕草で紅茶に手を伸ばすレオナとマァムは、小さく微笑みこのゆっくりのんびり流れていく午後のひと時を満喫していた。 
       
       
      「ふぁぁ〜ぁふ……」 
      そんな穏やかな空気の中、大きな欠伸が一つ……。 
       
      「あら珍しいわね、メルルが欠伸なんて!」 
      礼儀正しい彼女からは想像もできないほどの大欠伸に、2人の視線はメルルへと向けられる。 
       
      「あ!ご、ごめんなさい!私ったらはしたない…///」 
      「いいのよ。女同士ですもの気にしないで。」 
      「す、すみません…///きょ、今日はちょっと寝不足気味で…」 
      そう言いながらもまた小さく欠伸をするメルルは本当に眠そうだ。 
       
      「寝不足って…昨日寝付けなかったの?」 
      「いえ、寝付けなかったというわけではありません…」 
      「メルルが夜更かしするなんて珍しい…なにかあったの?」 
      「え!?い、いえ…そんな何かあったというほどのものではありませんので…」 
      焼き菓子を口に運びながら何気なく発したレオナの言葉に、メルルが一瞬動揺を見せた。 
       
      「……ん?どうしたのよそんなに慌てて…やっぱり何かあったんじゃない?」 
      「え!あ…ほ、本当に大した事ありませんので…」 
      先程より明らかに動揺をしたメルルの様子に、何もなかったとは思えない。 
       
       
      ……何か怪しいわね…… 
       
       
      レオナはこういった勘がとにかく鋭い。 
       
       
      「いーえ!そんな事ないわ!絶対なにか隠しているでしょ!?」 
      「か、隠しているなんてそんな…!本当に大した事ではありませんので……///」 
      「なーにーよー!大した事ないって!もう白状なさい!」 
      こうなってしまった以上、理由を聞くまでレオナは引き下がらない。 
      そんな性格をよく知っているメルルは観念したかのように小さなため息を吐くと、やや頬を赤らめこう答えた。 
       
      「…じ、実は昨日の夜ポップさんが私に会いに来てくださったんです…///」 
      「えぇ!?ポップ君が!?」 
      「ポップがパプニカに戻って来たの??」 
      メルルの発言に驚きを隠せないレオナとマァム。 
       
       
      ポップといえばパプニカの使者として、今はリンガイアに出張中の筈。 
      帰国予定日までまだ一週間はあった筈なのに、なぜパプニカニへ帰って来たのか…。 
       
       
      「はっは〜ん!さてはなかなかメルルに会えないポップ君が、ルーラを使って会いに来たって事かしらん??」 
      ずばりそうでしょう?と言わんばかりに確信を言い当ててきたレオナに、メルルは真っ赤な顔で「そ、そうです…」と小さく呟いた。 
       
      「やっぱりそんな事じゃないかって思ったのよー。ま、今回の仕事はポップ君にしか頼めない仕事だったから申し訳ないんだけど、やっぱり1ヵ月も離れ離れじゃ辛いわよね…」 
      ごめんなさいメルル…と、謝るレオナにメルルは首を振った。 
      「いえお仕事ですもの仕方がありませんわ。」 
      いくら恋人だからといって、仕事とプライベ−トを分けられないほど皆子供ではない。 
       
       
      「でもポップすごく喜んでたんじゃない?私も久しぶりに会ってみたくなったわー」 
      そう言うマァムもポップにはここ2カ月ほど会っていない事を思い出した。 
       
      「はい…///私もポップさんにお会いできて嬉しかったですし、沢山お話もできて良かったです。」 
      「あら、じゃーもしかして一晩中2人で話をしていたの?」 
      「えぇ、つい私も嬉しくて…ですから今日少々寝不足なんです…」 
      駄目ですね私ったら…と、照れ笑いをするメルルは、どこか幸せそうな雰囲気に包まれていた。 
       
       
      「ふ〜ん…でも本当かしらーその夜通しお喋りしていたっていうの〜」 
      そんなほんわかした空気の中、レオナだけがなんだか腑に落ちない顔をしている。 
       
      「突然どうしたのよレオナ?」 
      「な、何か私気に障るような事を言いましたでしょうか?」 
      「そんな事はないわよ。ただね、1ヵ月振りに会えた恋人同士が、一晩中一緒だったわけでしょ?それがお喋りだけだったっていうのがなにか変じゃないかしらって思っただけよー。だって相手があのポップ君よ〜?ずっとお喋りしてただけなんて考えられないわー」 
      そう言うレオナは実に怪しげな笑みを浮かべている。 
      侍女あたりが見かけたならば、「姫様がまた良からぬ事を考えてらっしゃるわ…」なんて思ったに違いない。 
       
      「お喋りもだけど、本当はいちゃいちゃしてたんじゃないの??」 
      「え!?そ、そんな姫…!!」 
      突然のレオナの発言に、純情少女メルルは真っ赤な顔で目をぱちくりさせている。 
      「で?で?本当はどうなのよ??」 
      「ひ、姫〜///」 
      「ほらほら言っちゃいなさいよ!」 
      メルルが本気で困っているようだったが、悪乗りし始めたレオナは誰にも止められない。 
       
      「レオナ!いくらなんでもそんな事聞くなんて失礼よ!」 
      メルルに負けないぐらい真っ赤な顔でマァムがレオナに文句を言うものの、当の本人はしれっとした表情で更に突っ込んだ質問をしてくる。 
       
      「いいじゃなーい♪女同士だし♪ねぇ、キスはもうしたの?」 
      「レ、レオナ!!」 
      こういった話が大好物なレオナがそう簡単に引き下がるわけもなく、「相手はポップ君だもんキスは経験済みよねー。あ、もしかして最後までしちゃった??」なんて爆弾発言を連発している。 
       
      「ポップ君ってやっぱりそういう事好きそうだし、一晩に何回も求めてきたりしない?」 
      「も、求めるって……///」 
      「うーん、知識だけなら豊富そうだしマニアックな事要求してきたりしてー♪」 
      一体レオナの中ではどれだけポップが変態に思われているのか、散々な言われようである。 
       
       
      「ま、マニアックだなんてそんな…!私達はいたって普通の事しか…!」 
      「あら〜!やっぱりポップ君とはそういう関係までいってたのね〜メルル♪」 
      「え!?あっ!!」 
      しまったと思った時には既に遅く、ポップとの関係を暴露してしまったメルルに、計算通りとにんまり顔のレオナからは、悪魔の影が見え隠れしている。 
       
       
      「……もう…姫には参りました…///」 
      あまりのレオナの赤裸々な質問に、メルルは顔から湯気が出そうなほど真っ赤になってしまった。 
      目が若干涙目だ。 
       
      「メルル…なにも恥かしがることじゃないわよ?どれもこれも恋人同士なら自然な事だと私は思うんだけど。」 
      だからといって、やはり恋人同士の秘め事は内緒にしておきたいと思うのが、人間誰しも本音だと思う。 
       
       
      「そ、そういうレオナこそダイとはどうなのよ!!」 
      あまりにもメルルが可哀想に思えてきたマァムが、強引に話題をレオナへと振った。 
       
      「え?私とダイ君?そりゃーもう毎日ラブラブよ!」 
      あの大戦の後、無事にパプニカへと帰還したダイは、今やレオナとは周りの誰しもが認めるほどの熱々ラブラブカップルだ。 
       
      「毎日最低1回はキスするでしょ〜。夜寝るのも一緒に寝てるし、やる事もそれなりにやってるわねー」 
      メルルとは逆に、実にあっけらかんとダイとの関係を告白するレオナは、実にさばさばしている。 
       
      「や、やる事って一体なによ…」 
      なんとなく嫌な予感はしたが、マァムは恐る恐る聞いてみた。 
      「恋人同士でやる事なんて決まってるじゃない!セックスよ!セックス!」 
      さらりと凄い単語を言ってしまえるパプニカの若き王女は、自身については何事にもストレ−トだった。」 
       
      「まぁ、私もダイ君もお互い初めて同士だったし、最初は大変だったけど今じゃ一種のスキンシップみたいなものかしら。」 
      「は、はぁ……///」 
      「でもやっぱり毎日だとマンネリっぽくなってくるから、他の人がどんな風にしてるのか気になってたのよねー」 
      「だ、だからあんなにも私達の事を…///」 
      根掘り葉掘り聞いてきたのか…と、ようやく気付いたメルルだったが、もうこれ以上言い返す気力もなかった。 
       
      「だってこういう事ってポップ君ならいろいろ知ってそうでしょ?今度の参考にさせてもらおうかと思ったんだけど…あ!ヒュンケル!ヒュンケルとはどうなのよマァム〜?」 
      「え!私?私がどうかしたの??」 
      突然自分へと振られた会話が理解できなかったマァムは、素っ頓狂な声を上げてしまった。 
       
      「どうかしたのじゃないわよ!まさか私達の事だけ聞いて、自分達の事は内緒なんて事ないわよね?」 
      「え?え?な、内緒もなにもそんな…」 
      まさか自分にもそんな事を聞いてくるとは思わなかったマァムはたじろいだ。 
       
      「当然ヒュンケルとの事…教えてくれるわよね〜?」 
      ムフフと笑うレオナの顔は、それはそれはつやつや輝いている。 
       
      「お、教えるもなにも、私とヒュンケルはそんなレオナが考えてるような事なにもないわよ…」 
      「マァム…私知ってるのよ?貴方達が付き合って1年になる事も、それなのに何もない…?そんなことあるわけないじゃない!!」 
      バ−ン!と勢いよくテ−ブルを叩いた拍子に、カップに入った紅茶がちゃぷんと零れた。 
       
      「で、でも…本当に私達なにもないのよ……!」 
      「あら、まだしらを切るつもり!?」 
      「本当なのよ!信じて!?」 
      あまりにも必死に訴えかけてくるマァムからは、とても嘘を言っているようには見えない。 
       
       
      (…マァムがあんなに必死に言うって事は、もしかして本当になにもない…って事かしら…でも1年も付き合ってて、1回もした事ないなんて正直信じられないわ…!) 
       
       
      恋人同士なら当然行う行為だと思っているレオナにとって、このマァムの言葉は衝撃的だった。 
       
      だがよくよく考えてみれば相手はあのヒュンケルだ。 
      一般的な恋人同士ならありえないと思っている事も、超が付くほど奥手で鈍感な彼ならありえるかもしれない。 
       
       
       
      「……わかったわ…。マァムが嘘をつくなんて思えないし、それが事実だと思うけど…けど…マァムはその関係に満足しているの…?」 
      一呼吸おいてからレオナは静かにマァムに問いかけた。 
       
      「…え!なに突然……満足もなにも…私達は…」 
      「…よく考えてみて…。マァムは…ヒュンケルに、彼に触れたいと思わない?キスをして抱き締めてもらって…身も心も一つになりたと思わないの?」 
      「レ、レオナ……」 
      先程とは明らかに違う、真剣な眼差しで自分に語りかけてくるレオナに、マァムは内心動揺を隠し切れないでいた。 
       
      「マァムもヒュンケルも、お互いに納得してそういう関係なら私はいいと思うの。でも…マァム、貴方は納得してないって気がするわ…」 
      「…………」 
      「どこかそういう行為を、厭らしいとか負の感情で見ているかもしれないけど、これって自然な事だと思う…。もっと自分の気持ちに正直になってみてはどう?」 
      「……自分の気持ちに正直に……」 
       
       
      レオナに言われるまま、マァムはこの時始めて自分自身に問い掛けてみた。 
       
      今現在、マァムはヒュンケルとの関係にそれほど不満をもっているわけではない。 
      傍から見れば友人の延長線のような関係に見られているのかもしれないが、マァムはこれで良いと思っていたのだ。 
      だが確かにレオナに言われたように、ヒュンケルに触れたいか?と聞かれれば、少々照れも混じるかもしれないが触れてみたいと答えるだろう。 
      これがポップやダイなら答えに困るかもしれないが、ヒュンケル相手ならばすぐに答えられる。 
      それが唇や身体といった直接的なものなのか、はたまた彼の心といった内面的なものなんか…そこまでははっきりとわからないが、きっとヒュンケルであれば自分は全てに触れたいと言うに違いない。 
       
      ここまで考えてマァムははたと気付く。 
       
      触れたい   、それは紛れもないヒュンケルを愛しているからこそ芽生える感情なのだと。 
      そして同時にヒュンケルからも自分と同じように思われたいという思いがマァムの中で大きくなった。 
       
       
       
      「……ありがとうレオナ…私、自分の気持ちに正直になろうって思ったわ。」 
      「マァム……」 
      「私…ヒュンケルと、ヒュンケルと触れ合いたい…一つになりたい…」 
      満面の笑みでマァムが答えた。 
       
       
       
       
       
      「よーし!そうと決まれば話は早いわ!で、早速作戦なんだけど、とりあえず最初は無難にお色気作戦からやってみてはどう?」 
      「「……え!?」」 
       
      さっきまでの真剣な表情は何処へやら。 
      急に生き生きつやつやしはじめたレオナからは、なに良からぬ事をたくらんでいる時特有の匂いがぷんぷんする。 
       
       
      「……ひ、姫……なんだか嬉しそう……」 
      「…ちょ、ちょっとあの真剣な会話はなんだったのよ…!」 
      もしかしてうまく乗せられた…?なんて思いが過ぎりながらも、こうなってしまったレオナからは逃げられないという事を、今までの経験上マァムはよく知っている。 
       
       
      「とりあえずてっとり早くエッチな下着なんか着て誘ってみたら?」 
      「えー!い、嫌よそんな恥かしい///もう少し自然な感じで……」 
      「なに言ってるのよ!あんな鈍感なヒュンケルに半端な事が通じると思うの?これぐらいあからさまに挑発しないと気付かないわよ!」 
      なんだかひどい言われようだが、確かにレオナの言う事もわかる気がする。 
       
      「そ、そうかしら……でも私そんな下着持ってないし…」 
      「じゃ、私のとっておきの勝負下着を貸してあげるわ!これならあのヒュンケルも一発KOよ!」 
       
      なんでそんな物を持っているのだとか、それが一体どんな下着なのか不安でいっぱいのマァムをよそに、レオナは楽しくてしかたがない様子だ。 
       
      ちょっと持ってくるわね〜♪なんて言いながらスキップで去って行くレオナに、やっぱり相談する相手を間違えたわ…と思うマァムであった。 
       
       
       
       
      一方ヒュンケルはというと・・・・・ 
       
       
       
      「……っう……!」 
      「どうしたのヒュンケル?」 
      「……いや、今一瞬寒気がしてな……」 
      「え!大丈夫?もしかして風邪でも引いちゃったんじゃない?」 
      「……そうかもしれんな…。ダイ、悪いが今日の手合わせはここまでにしてくれないか?」 
      「うんわかった。お大事にねー」 
      そう言って城へと戻って行くダイを見送ったヒュンケルは、改めてここ最近の生活を振り返ってみた。 
       
      (…仕事も忙しかったからな…疲れでも溜まったのだろうか…) 
       
      たまには早く帰ってゆっくり休むのもいいだろう。 
       
      そう思い家へと戻って行ったヒュンケルだったが、まさか己の部屋の寝室に、下着(超セクシーなやつ)だけを身に着けたマァムがいるなどとは、この時彼は知るよしもなかった。 
       
       
       
          そしてその晩、ヒュンケルが出血多量で病院へと担ぎ込まれた事は言うまでもない。 
       
       
       
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